◆不整脈:とくに心房細動について

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ はじめに

 

 脈拍が極端に速いもしくは遅い、あるいはリズムが乱れる病気を総称して不整脈といいますが、そのうち治療が必要なものに心房細動(しんぼうさいどう)という病気があります。その名の通り、心房が「細かく震える」ものです。

 心臓には4つのお部屋(上に2つと下に2つ)があり、上の部屋を心房(しんぼう)、下の部屋を心室(しんしつ)という名前で呼びます。心房には脈を打たせる司令塔(=洞結節)があり、一分間に50-90回程度、規則正しく指令を出しています。ところが、加齢とともに心房が傷み、心房のあちこちで不規則かつ無秩序に脈の司令が出始めるのがこの心房細動という病気で、高齢化に伴い急増しています。今回は治療ニーズが非常に大きく、そして治療の進歩も目覚ましいこの不整脈を紹介したいと思います。

 

■ 病気のメカニズム

 

 心房細動では心房が細かく速く、かつ不規則に動き、毎分300から500回の頻度で興奮して一種のけいれん状態になっています。この電気興奮はそのまま心室に伝えられるのではなく、途中で調整されて心室に伝えられるので、心室はけいれん状態にはなりません。しかしながら心室には興奮が毎分60から200回の頻度で不規則に伝わり、心室の興奮を反映する心拍も速く不規則になるのです。心拍数は一分間に100回を超えることも珍しくありません。

 
 1)正常の心電図 (間隔が一定)

 

 

 

 

 2)心房細動の心電図 (間隔がバラバラ)

 

 

 

 

■ 原因

 

 ではどういう人が心房細動になりやすいのでしょうか。心房細動は高齢者に多く発症することが知られていて、国内に現在70-80万人の患者さんがいるといわれます。65歳以上の方では3-5%の有病率といわれ、めずらしい不整脈ではありません。80歳以上で10%弱に認めます。心房筋の老化のほかに高血圧症や甲状腺機能亢進症といった心臓そのものに対する負担があると、この不整脈が起こりやすくなります。また、もともと心臓に心不全、心筋症、弁膜症といった病気がある方、また心臓の手術後などは心房細動の発症頻度が高くなります。飲酒後に出現することもあります。過度な飲酒の後、二日酔いで夜間や明け方などに起こることが多いようです。

 

■ 診断

 

 症状や病歴からこの病気を疑い、確定診断は心電図で行います。発作がいつも出ているとは限りませんので、場合によっては24時間心電図(ホルター心電図)を行います。

 

■ 症状と予防

 

 自覚症状はどんなものでしょうか。これはかなり個人差があります。「なんとなく脈がおかしいと思う」「胸のあたりに違和感がある」という軽いものから、「胸が苦しくて立っていられない」といった重いものまでさまざまです。無症状で、健診の心電図により発見されることもあります。

 心房細動を予防することはなかなか難しいのですが、もっとも大事なことは血圧をしっかりコントロールするということです。生活習慣の見直し、適度な運動、塩分制限、しっかり睡眠をとる、ストレスをためない、など一般的な注意点を再確認しましょう。また、飲酒は適度な量を心がけることが必要です。

 厚生労働省は“100 %のアルコール10g を1ドリンク”として「1日平均、男性2 ドリンク以下、女性1 ドリンク以下」を適度な量としています。男性は「ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合まで」、女性は「ビールなら中瓶1/2本、日本酒なら0.5合まで」が目安となります。

 

■ 心房細動のタイプ

 

 持続時間が数時間、おそくとも一週間以内に正常の脈拍にもどるものを発作性心房細動と呼びます。それ以上続くものは持続性心房細動と言われ、お薬や電気的除細動によって不整脈が停止することもあります。

一年以上持続する場合には永続性心房細動と呼ばれ、一生涯この病気と付き合っていくことになります。

心臓に基礎疾患がある場合に心房細動が固定化しやすいのですが、一般的な自然経過としては、はじめは

発作性心房細動で発症し、徐々に発作頻度、持続時間が増加していき、最終的に慢性化することが多いようです。

 

■ 心房細動の合併症

 

 先ほど述べたように脈が速くなりやすいのがこの病気の特徴です。頻脈が続くと心臓のポンプ機能が破たんし、ポンプ失調=心不全という状態になり、少し動いただけで息が切れたり、体のむくみが出てきたりします。また、心房が「細かく震える」ことが問題となります。正常の心房が「しっかり動く」に比べ、実に弱々しいのです。その結果、心房の中では血液がよどみ、よどんだ血液は固まりやすく、血栓(けっせん)を作りやすくなります。これが血液の流れに乗って心臓から出ていくことにより、さまざまな問題を起こします。脳塞栓症という大きな脳梗塞がもっとも有名ですが、おなかの血管に詰まれば腸管が壊死(えし)に陥ってしまいますし、手や足の血管に詰まることもあります。いずれも重大な後遺症を残しますので、心房細動という病気がわかった場合には血栓を作らないような予防のお薬を飲む必要があります。

 心臓が原因で発症した脳梗塞はその範囲が大きく、通常の脳梗塞より重篤な経過をたどります。意識障害をきたして寝たきりになり、失語症になる確率が高いのも特徴です。非常に元気な方が突然、寝たきり状態

になりますので、本当に恐ろしい合併症です。75歳以上、高血圧、糖尿病、もともと心疾患がある、脳梗塞の既往がある、のいずれかに当てはまる方はとくに注意が必要です。これらは塞栓症の危険因子であり、複数の危険因子を持ち合わせている場合、未治療では塞栓症を起こす確率が年間5%以上(= 5年間で25%以上)と高率となります。実際は65歳以上から高危険群と考えて治療を開始し、それより若い方でも合併疾患によっては血栓予防のお薬を処方することがあります。

 

■ 薬物治療

 

 「そんなに脅かさないで…」とよく言われますが、これはどうしても患者さんに理解しておいてほしいことなのです。適切な治療を行えば健康な方と変わらない生活を送れるのですから。ポイントをもう一度おさらいします。

 1) 脈が速くならないようにコントロールする
 2) 血栓予防のお薬を飲む

その上で
 3) 可能であれば、脈を正常の脈に戻す

ことを考えます。

 血栓予防のお薬に関しては、この50年間、ワルファリン(商品名:ワーファリン)というお薬の独壇場でした。効果が確実で、今でもわれわれ循環器医の信頼が厚いお薬です。ただ、血栓予防というお薬の性質上、血がサラサラになりすぎると出血性副作用が出てくることがあります。多くの患者さんが高齢になってきてその副作用も増えてきている印象です。専門医が十分に注意して使っていても脳出血や消化管出血がある一定の割合で起こるのです。そういった副作用を少しでも少なく、かつ血栓予防効果がワルファリンに劣らないお薬がここ数年出てきました。ダビガトラン(商品名:プラザキサ)、リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)、アピキサバン(商品名:エリキュース)、エドキサバン(商品名:リクシアナ)といったお薬が新規抗凝固薬として使われています。それぞれに特徴がありますので患者さんにあわせて選択します。もちろん、ワルファリンを継続している方も多くいらっしゃいますし、ワルファリンしか投与できない場合もあります。

 

■ 心房細動の新しい治療

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[Medical Tribune 2008年12月25日(VOL.41 NO.52)より]

 

 従来の治療のみでは胸の不快感が残る方や心臓機能が弱っていく方がおられます。特にもともと心臓疾患があって心房細動が加わった方は心臓のポンプ作用から考えると非常に不利な状態です。できれば不整脈をもとの正常の脈に戻した方がよいケースもあり、お薬で効果が認められない場合は次の手を考えます。

これがカテーテルアブレーション(焼灼)という治療で、心臓カテーテル治療の一つに分類されます。

まず最初に手足や首の血管から心臓まで複数のカテーテル(管)を通して、不整脈の原因となっている場所を突き止めます。次にその部位を高周波電流で焼灼して異常な脈の指令が出ないようにして正常の脈を取り戻させるという画期的な治療法です。胸を切り開くことなく内科的に治療が行えるという点で、メリットが大きいといえます。心房細動の症状が取りきれない方はご相談ください。